リスク教育研究会のコラムの追加等を
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2023年3月13日以降、高齢者施設や密になる場所などを除いて、マスク着用は個人の判断に委ねられました。私は花粉症なので、まだマスク生活を続けていますが、マスクを外した爽快感を味わっている方々も多いことでしょう。
COVID-19感染予防対策として手指衛生やマスク着用などが励行された2020~2022年春まで、インフルエンザの感染者数は激減しました(感染症発生動向調査 週報、国立感染症研究所研究所)。インフルエンザ感染予防に、手指衛生やマスク着用の効果が無いわけではありませんが、この文章からは手指衛生やマスク着用がインフルエンザ感染を抑えたようにも読み取れます。COVID-19出現から3年が過ぎた2022年冬~2023年春シーズン、国内でもインフルエンザの流行が確認され、手指衛生やマスク着用だけで100%インフルエンザの流行を防ぐことができないことが明らかとなりました。また、一部の報道では有識者が、コロナウイルスとインフルエンザウイルスの重複感染を危惧する発言もありました。
ウイルスは感染できる細胞が決まっており、どちらのウイルスも主として気道粘膜に感染して冬期に大きな流行を起こすことが知られています。また、どちらのウイルスも咳やクシャミなどの飛沫によってヒト-ヒト感染しますが、感染成立にはある程度のウイルス量(数万個以上)が必要になります。手指衛生やマスク着用は、取り込んでしまうウイルス量を低減しているだけなので、感染者と接触距離が近いほど、接触時間が長いほど、感染する確率も上がります。「感染者」と書きましたが厳密にはウイルス排泄者であり、排泄量は感染者個々で異なります。また、受け取り手の非感染者も、個々で免疫の能力が異なりますので、同じ空間に感染者と複数人で居たとしても、感染するヒトと感染しないヒトが出てくるのです。
仮に、非感染者がインフルエンザウイルス排泄者とコロナウイルス排泄者と同時に会食したとしましょう。排泄者のウイルス排泄量や飛沫を吸い込む確率(距離、顔の向き、会話時のマスク着用割合など)が同程度で、非感染者がそれぞれのウイルスに対する抵抗力を同程度持っていなければ、いずれかのウイルスが優先して感染する事でしょう。世界人口を考えれば、「たまたま」が起こらないとは言えませんが、感染スピードなどの他の要因も加味すると、コロナウイルスとインフルエンザウイルスの重複感染の可能性は極めて低いと考えられます。むろん、どちらかの感染細胞にもう一方が感染できるのであれば重複感染可能となりますが、もしもCOVID-19とインフルエンザにそうした関係性があったとしたら、2020年の時点で重複感染例が報告されていたことでしょう。ただし、コロナウイルス同士では、XBB.1.5のように2種類の変異株が1人の体内で組み換え株を生み出していますので、重複感染の可能性はゼロではありません。そのため、極めて低い可能性であっても政府や医療機関が注意警戒して最悪の事態の備えることは必須ですが、今冬の一般市民への報道は不安をあおいでいるように思えます。
COVID-19パンデミックを経験したことで、多くの方が以前より感染症に対する知識を得たことと思いますが、誤った見解や偏った報道に注意しながら、今後も感染予防に努めていきたいものです。
さて、今回のコラムはあえて「リスク」を使わずに書いてみましたが、「リスク」と言い換えた方が適当と思われた箇所があることでしょう。是非コメントください。
(内藤博敬)