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ワンコの全身麻酔について

「良かった!」

動物病院に迎えに行った我が家のワンコが目を覚ましてこっちを見ていました。

先日、我が家のワンコが全身麻酔をかけて歯の治療をしました。13(3月で14歳になります)のシニア犬です。小型犬なので人の年齢だと70歳くらいのおじいちゃんです。大きな病気にかかることもなく、過ごしてきたのですが、歯を気にするようになり、食欲にも影響しているようでしたので動物病院に連れて行きました。ワンコの歯の治療は全身麻酔をかけて行います。動物病院の獣医師さんから、「老犬になるとリスクは高くなるけれど、持病もないし、血液検査も特に異常は見られないので、大丈夫でしょう。」といわれ、思い切って治療をしていただくことにしました。

この場合、受け止めたリスクはワンコが死んでしまう確率なのですが、どのくらいの確率で発生するかを確認していませんでした。既に終わってしまったことですが、ワンコの麻酔による死亡のリスクを調べてみました。

小動物臨床での麻酔に関連した死亡率に関する報告は人医療と比較して多くはありません。2002年から2004年にイギリスで行われた多施設 (117の診療施設) における98,036頭のイヌ、79,108頭のネコの鎮静、麻酔処置に関連した死亡リスクの調査によると、死亡リスクはおおよそイヌで0.17%であり、ネコで0.24%と報告されています。この研究では、アメリカ麻酔科学会全身状態分類(American Society of Anesthesiologists Physical Status Classification: ASA-PS)により患者を分類して死亡率をみていまして、ASA12(健康な患者)の場合はイヌで0.05%、ネコで0.11%であり、ASA3~5(疾患を有した患者)の場合はイヌで1.39%であり、ネコで1.40%であったと報告されています(Brodbelt et al., 2009a)。疾患を有していないワンコであれば、全身麻酔による死亡のリスクはそれほど高くはないようですが、個体による感受性の違いや施術する獣医師の経験など、リスクに影響を与える様々なリスクファクターがあることも意識しておく必要があるように思います。

今回は、死亡の発生確率を確認することなく、いつも診ていただいている獣医師さんを信頼して、治療することとしました。生きているものは、いつか必ず死を迎えます。我が家のワンコが病気になって治療が必要となったとき、その治療に対するリスクとベネフィットを理解して判断することは死を受けとめるためにも大切なことだと改めて思ったのでした。

(熊谷 優子)

a) Veterinary Journal 182(2): 152-161