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看護等の医療系分野でも、「リスク」は様々な言葉や用途で使われています。特に、感染者数などの数字を扱う疫学や医療統計の分野では、特徴的な使い方をしています。この分野では、しばしば感染や治療のリスクを比較する事が求められます。この時に使われるリスクとは、集団に対する感染者数の割合や、治療効果の有無を割合で示した「確率」であり、「リスク比」として比較に用いられています。
例として、治療法Aと治療法Bの効果を比較したい場合を考えてみましょう。A法は4例中3例で奏効が示され、B法では4例中2例で奏効が示されたとします。この場合、A法で効果を認めた割合は3/4=0.75(75%)、B法では2/4=0.5(50%)となります。0.5に対して0.75は1.5倍なので、「A法はB法に比べて1.5倍効果が得やすい」ということを意味すると捉えられます。医療系分野では、この「〇倍」(例では1.5)をリスク比と呼んでおり、例のような治療法や投薬効果などの比較に用いています。そう、ここで使われる「リスク」とは、あくまでも効果が示された「確率」の事であり、この確率を比較することで効果の優位性を分かり易く示します。
実際の医療統計では、例のような少数の結果でリスク比を出す事はできません。個体差や条件などの影響を考慮して、できるだけ多くのデータから導き出されます。しかし、疾患によっては限られた患者数で比較しなければならない場合も少なくありません。科学のためとはいえ、患者数を増やすことを求めることはできませんから。そのため、サンプル数の少ない症例報告などの場合には、リスク比ではなく、オッズ比と呼ばれる演算法で示すことがあります。オッズは、例えば集団の感染者数であれば感染者数を非感染者数で割ったもの、治療法であれば効果を示した数を示さなかった数で割ったものです。前述した治療効果の例で示すと、A法では3/1=3、B法では2/2=1となります。このオッズを比較したものがオッズ比で、この場合「A法のB法に対するオッズ比は3/1=3」となります。症例数などが少ない場合でも比較しやすいように考案された演算法ですが、オッズ比はリスク比のように○倍とすることはしません。あくまでも、対象群の優位性を示すための手法です。しかしながら、オッズ比をリスク比と混同して示したり、「○倍の効果」として報道された事例も、過去には国内外で起こっています。
オッズは評価法として優れた手法ではありますが、リスクとは異なることを理解して使わないと、受け手が認識を誤るリスクが高くなってしまうのです。
(内藤 博敬)