リスク教育研究会のコラムの追加等を
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「リスク」という言葉は様々な意味で使われています。辞書には「危険」などと書かれていますし、経済学では「不確実性」、化学物質では「有害性と曝露量の積」、工学分野では「危害発生の確からしさと危害の厳しさの組み合わせ」などとされています。○○はリスクである、△△のリスクがある、のように危害の要因や可能性の意味で使われる場合もあります。
それらの整理は別の機会にして、ここでお勧めする「リスク」は、
「リスク」= 起きて欲しくないことが起こる確率
とする定義です。リスクを確率として考えるのです。確率は0から1までの間の連続な数です。つまりリスクはある/ないではなく、大きい/小さいと表現することになります。「起きて欲しくないこと」は最終的な結果のことで、専門用語でエンドポイントと言います。そしてそのことが起こる要因や原因になるものをハザードと言います。異なるハザードでもエンドポイントを同じにすればリスクは比較できます。たとえばインフルエンザと交通事故でも、エンドポイントを「死亡」とすればそれらが原因で死亡する確率を比べることがリスクを比較することになります。リスクを確率で考えると、その数値の大きさからどれだけ危ないのかが客観的に分かり、対策の優先順位づけの参考になります。
一方で、リスクはエンドポイントによって異なることに注意が必要です。たとえば交通事故では、死亡者数より負傷者数の方が多いので、エンドポイントを死亡とするか負傷とするかでリスクは異なります。つまりリスクを考える時は、まず先にエンドポイントを決めることが重要です。また同じエンドポイントでも個人の状況や環境などによってリスクが異なることにも注意が必要です。たとえばお年寄りやアレルギーを持つ人、危険な仕事に従事する人などのリスクは、統計データから求められる平均的なリスクより大きかったりします。
どのようなエンドポイントを重要と思うかは個人の価値観などによります。たとえばインフルエンザの場合、死亡する、後遺症に苦しむ、治療費がかかる、会社や学校を休まなくてはならないなど、人によって重要なエンドポイントはさまざまです。エンドポイントを考えることは、自分の価値観を整理する機会になります。他の人のエンドポイントを知ればその人の価値観が分かり、その人が取る行動や言動が理解できるようになるかもしれません。みんなでエンドポイントを話し合うと、価値観の多様性を知り、より良い対策の合意につながるかもしれません。リスクを確率で考えることは、個人や社会をより良くすることにもつながるのです。
(金澤 伸浩)