今私たちは「65歳から30年分の必要になりそうな額を、すべて65歳時に用意しよう」という前提に立っています。どこを見ても、ネット記事も雑誌もFPセミナーでもみんなそういう前提になっています。ここまでくるといわば社会常識みたいなものです。
この常識では45歳の人が65歳に3000万円用意しようとすると、毎月7万4千円積立投資(年利5%想定)する必要があります。投資元本1776万円です。
そこでいったんこの社会常識を捨てて考えてみます。65歳時点で用意するのは30年分ではなく15年分にすればいい。その代わり80歳からの15年分は、80歳までに資産形成すればいい と考えてみます。
45歳の人は
45歳から20年間で65歳時1500万円、
45歳から35年間で80歳時1500万円
を資産形成すると考えます。年利5%想定で
20年で1500万円資産形成するための月積立投資額3万7千円(65歳時1520万程度)→投資元本888万円。
35年で1500万円資産形成するための月積立投資額1万3300円(1511万程度)→投資元本558万6千円。
これを総合すると投資元本は1446万6000円です。
65歳までにすべて準備する場合、投資元本は1776万円でした。2分割すれば投資元本は329万4千円少なくて済みます。
投資元本の少ない分は、他のことに使えます。
さらに、あまりうれしくはないですが、統計上、80歳未満で死亡する確率(男性約30%、女性14%)に該当した人は、30年分の資産形成を終わらせずに亡くなります。
このほうが死ぬまでに使えたお金が多いので合理的です。
さて、2分割した資産形成を年齢で区分すると
45歳から65歳まで月積立投資額5万300円
(65歳までに終了する分と80歳まで積立投資する分の両方)
65歳から80歳までの月積立投資額1万3300円
という状態になります。
65歳までにすべて資産形成しようとした場合の月積立投資額は7万4千円ですから、差額2万3700円少なくて済みます。
しかし一方で65歳になっても積立投資を続ける必要があります。その額は1万3300円。心配な人はこの分(65~80の15年分199万5千円)を
65歳からの取り崩し額に加算する、つまり65歳時1500万ではなく1700万に設定して積立投資する方法もあり得ます。
その場合には実質的に65~80の積み立て投資元本は計算上負担済みということになります。
この辺になると堂々巡りの感じもあります。もともと65歳までに積立投資を終わらせようとすれば投資元本は1776万円でした。
これを二分割すると投資元本1446万6千円。積み立て投資を薄く長くして実質投資元本を減らしているので、やりくりしてできるという考えもあります。
さてここで2分割案の理解の重点は実はそこではありません。
65歳から30年で3000万円が不足する、だからその分必要と考える人は、その想定のままでも、毎月7万4千円積立投資できなくてよい。
毎月5万300円以上になっていれば十分と考えてよいということです。
65歳時に1500万円ちょうどの資産を形成した場合は65歳から積立投資1万3300円を続ける。
差が小さくなっていれば、つまり7万4千円未満5万300円以上の積み立てができていれば、65歳からその差分だけを積み立てればよい。
これによって死ぬ時期の残額は小さくなります。早く死んでしまった場合には無駄に残すための投資が終わっていないので、無用な投資を小さくできます。
お金は使うためのものです。それが今か、将来かという違いはありますが、使わないお金を残すために資産形成する必要はないでしょう。
(ここでは自分(世帯)の老後資金だけを想定しています。相続用に財産を残したいという話は別で、本稿の対象外です)
今回は65歳からの15年、80歳からの15年の2分割で考えました。
人によっては70歳まで働くので、70歳を目指して積立投資する、その場合、70歳に15年分を、85歳到達で10年分を積立投資するなど、パターンは様々あり得ます。
それぞれの現時点の家計の状況、働く期間などを考慮して(積立投資に回せるお金の事情によって)計画を変えればよいということです。
専門家と名乗る人たちの固定的な設定、常識に惑わされず、自分の家計の状況に合わせた資産形成を無理なく始めることをお勧めします。
次回はイギリスの株式時価総額と名目GDPの話にもどります。
(小山 浩一)