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職業生活上のリスクの検討⑥~メンバーシップ型からジョブ型へ変化する過程で生じるポジショニングとリスク~

  

以前に記述しましたが、私はメンバーシップ型雇用制度慣行の典型的な日本企業に勤めていました。しかしその会社が金融危機時期に経営がおかしくなり、その後、外国資本に買いとられました。

この時期、経済紙や金融系の新聞等でこれに関する報道がなされていました。概ねトーンは同じで「市場を持つ日本社と、高度のノウハウを持つ外資の統合により相乗効果を生み出す」というものです。

この報道を見て、当時の私(市場をもつ日本社の社員)は「なるほど市場は持っているけど、それをうまく生かせないバカな会社とその社員ということね」と不愉快にその報道を見ていました。

実際に新しい経営陣がきて(形式的な日付の数か月前)、「当該外国資本がもっていた日本の会社(この外国資本はすでにゼロから日本で会社を立ち上げており、当時6~7年程度経過していた)」と、「私のいた日本社」が合体する統合作業のプロジェクトが始まりました。ここで関係者は結局3者いたことになります。すなわち、私のような日本社にいたもの、その外国資本がすでに経営していた会社にいたもの、さらにこの統合のために本国からやってきた幹部や統合後の会社の経営のために新規採用された経営陣です。

統合のプロジェクトが始まった際、面白いことに気づきました。それは私のいた会社(市場をもっている日本の会社)の社員は、専門性に劣るという「共通のくくり」で位置づけられていることでした。逆に、もともと当該外国資本のもとで経営されていた会社の社員は専門性があるという共通性でくくられていました。

ここでポジショニングの問題を考える際、この「共通性でのくくり」は重要なファクターになります。通常、ある個人の会社での位置は、その個人のスキルや経験、社内・外の人間関係などに依存して決まると考えられます。しかし、全体が特定の方向で変化する場合には、一定の人間集団を共通のくくりでグループとして位置づけること、またそのグループに属しているかどうかの影響が一時的ですが強まります。

イメージしやすいように単純化すると

特定個人のポジション=グループ要因+個人要因

で決まるが、全体が変化する場合には一時的にグループ要因の影響が大きくなるということです。

統合のプロジェクトで、ある職務領域の日本社側のまとめ役を担当した私は、「新規採用されてやってきた当該領域の担当役員」と、「日本ですでに経営されていた当該外資企業のまとめ役」と3者協議したことがあります。その際、その職務領域に存在していた社員のうち私のいた会社の社員については面接により状況確認(ようするに仕事はちゃんとできるのか)を行うことが決まりました。その面接は、すでに存在していた当該外資系企業でその職務領域を担っていた部長クラスが行うというものでした。

これに不快感をもった私は、こちらにも専門性のある社員がいるので、その点を公平にみろと要求していました。実は当時、私のいた日本社からは専門性の強い社員がすでに一部流出しており、「まずいなー」と感じていました。しかしこれは当時いた日本社側の社員の雇用問題に直結しており、「なんとかしないと」と思っていたことを記憶しています。

さてメンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へ、全体が変わるとき、外からまったく人がやって来ないのであれば、このグループ要因を考慮する必要はあまりないと考えられます。

一方、ジョブ型雇用導入のために、その専門として採用された人事部門の幹部やコンサルタントが外から来ると話は変わってきます。まず、制度慣行を変えるための予算措置や規模にもよるでしょうが、各職務領域の管理職について、メンバーシップ型雇用の中で育ってきたものは共通性でくくられ(=専門性に劣る)、外から専門性の強いものを採用して、変えてしまおうという志向が強まります。また非管理職も、同様に専門性の観点から「メンバーシップ型雇用で専門性が劣るはず」という共通性でくくられてしまう可能性が高まります。

さて余談ですが、このような状況下で、コンサルタントとして外から一時的にやってきた人たちには気を付ける必要があるでしょう。すなわち、かれらはコンサル業務の過程で人の評価を行っている場合があるということです。これはその時期の経営陣から要請された役割ということですが、業務プロセスの統合などの主たる要因で接していたつもりでいたら、コンサルタント側はそれ以外に、こちらの言動を評価視点で見ており、それを経営陣へ報告しています。これは特に管理職は気を付けたほうがよいでしょう。コンサルタントは、会社経営陣の意向にそっていなければ仕事にならない(お金もらえない)ので、彼らが悪いわけではありません。しかし、そこに居合わせた社員の立場から言えば、そういう役割(制度慣行の変更に合致した行動ができるのかという視点で評価する役割)をもった人間が、一時的に日常に近い形で接触していることを認識しておいたほうが良いと思われます。

「コンサルタントに気を付けよう」というのは、ジョブ型雇用の変形形態の場合、特に重要です。変形形態というのは人事権がどこにあるかという点です。ジョブ型雇用では、本来、人事権はそれぞれの職務領域の部署にゆだねられています。専門性の高低は、その専門の人にしかわからないので、人事権が人事部門にあっても機能しないからです。

これに対してメンバーシップ型では人事権は人事部に集中しており、これと対極にあります。

特に難しいのは、これまでメンバーシップ型雇用の企業が、自らジョブ型雇用へ変えようという場合です。この場合、人事権を手放したくない経営陣が、「ジョブ型」だけど「人事権はそのまま集中的に人事部に置きたい」という変形形態になってしまうことがあり得ます。コンサルタントも経営陣の方針には逆らえない(お金もらっている立場)ので、「ジョブ型としてはおかしいなー」とわかりつつ、その方針で制度設計と移行作業に関わります。こうなると、コンサルタントの評価視点の報告が、経営陣の古い体質による「あいつはやる気がなくて、どっかどばしてやる」的な不可思議人事を促進することさえ生じます。

さて次回は、このような状況下(メンバーシップ型からジョブ型への変化過程)で何を注意すべきか、また中長期的にはどうすれば良いのかを整理し、本テーマに関して最終回とします。