情報・コラム

最近の債券投資詐欺の話~どうすれば事前に「おかしい」と思えただろう?~

債券がらみの詐欺は今までも残念ながらありますが、最近の事例について気になったので取り上げます。ニュース等の断片的な情報(なので、正確かどうかわからない)を総合すると最近のケースはこういう内容だったようです。5年の債券(利付債)で、元本100に対して毎年20%の確定利子、5年の満了時に元本100を返す。20%×5年=100%。元本が更に戻ってくるので100%。合計200%。つまり5年で倍になるという債券投資。それが確定しているという内容だったようです。しかし実際にはそういう債券はなくて単にお金をだまし取られたということのようでした。

 この話、聞いたらどう思うでしょうか? 「資産は増やしたい、でもリスクはとりたくない」この心情をくすぐる内容だから、ひょっとしたら世の中にはリスクなして高いリターンを得られる金融商品が存在しており、そういううまい話は誰かに独占されている。ようやく自分にそういう話がまわってきたかと考えたら、これほどいいことはないでしょう。

 この話を聞いたとき、「なんだかおかしいな」と思うとすると何が基準になりえるでしょうか?たぶん、理屈的には2点です。

 

1 リスク無し資産のリターンは今なら0.69%が上限

金融とか投資のテキストで、基礎的な話がのっているものなら、必ず出てくる考え方があります。すなわち、無リスク資産には小さなリターンがあって、その小さなリターンを超えるリターン(超過リターン)が欲しいならリスクをとる必要がある。小さくリスクをとれば小さな超過リターンが、大きくリスクをとれば大きな超過リターンを得られる可能性が増すというものです。超過リターンをリスク無しで提供するといったら、それは間違いなく詐欺と考えたほうが良い、テキスト的にはそういえそうです。

そこで無リスク資産のリターンはどの程度なのかという話になってきます。無リスク資産の代表は、先進国(日本含む)ではその国の国債です。日本では10年物個人向国債が代表と思われます。この金利は現在(6月12日現在、財務省HP0.69%です。

 また銀行の定期預金も元本保証で、銀行破綻を考慮した預金保険対象(1000万とその利息が保障される)であれば無リスクと位置付けられます。すると最近の例ではネット銀行などで1年0.3%とか3年0.4%とかのレベルで提供されています。

 ということで、現状では無リスク資産は高くても0.69%くらいまで。これを超えるリターン(年20%とか)をリスクなしで得られるという内容なら、「おかしい」と思ったほうが間違いないでしょう。

 ちなみに私が持っている債権は2年債券で某企業が発行したものです。年の確定利子は0.9%、2年後の満了時に元本100が戻ります。この債券のリスクは、保有期間中の価格変動です。債券は金利が上昇すると価格が下がるので、たぶん、今、売却すれば100を下回るはずです。しかし持ち続ければ100は返ってきます。もう一つのリスクは発行企業の経営破綻等のリスクです。したがってこういう債券は超過リターンは小さい(0.690.9)ですが、しかしその小さい超過リターンを、保有期間中の元本割れ等の小さいリスクで得ようとしているということになります(せこくてすみません。なお私がこの債券を購入した時期には個人向け国債の金利は0.3~0.4程度だったと思います)。

 

2 債券を発行する企業は、なんでそんなに債券の利子を払えるの?

今、ある会社が1億円を投ずると、そこから売上が生ずると予測できる新規事業があると考えます。その売り上げから売上原価を引いて(=売上総利益)、そこからその仕事に関わる社員の給与とか、外注費とか、事務所の家賃とか、さまざまな経費(販売及び一般管理費)を差し引く(=営業利益)と、1000万円が残ります。すなわち1億投ずれば、必要経費を差し引いて投資元本の10%が利益として残る予定です。ところがいま、会社にその新規事業に投資する1億円がありません。そこで債券を発行するとか、銀行から借りて1億円を用意しようと考えます。投下した資金に対して10%の利益率なので、20%も金利を払ったら大赤字です。

 営業利益は金融収支を考慮する前段階の利益です。この営業利益から経常的に生ずる金融収支(債券や借入金の金利支払い、株などの配当金収入)をマイナスしたり、プラスしたりして経常利益が算出されます。したがって考慮すべきは「営業利益の投下資金に対する比率」ということになります。財務分ではROE(資本利益率)とかROA(総資産利益率)がよく出てきますが、これらは分子の利益が経常利益になっているので、これだと金利をどの程度はらえそうかという目安になりません。すでに金利支払いを終えた後段階の利益(経常利益)だからです。

 そこで気が付いたのが、財務分析指標のなかでちょうどよい投下資本利益率(ROIC)です。このROICは分子が営業利益なので、借入金や債券の利子支払い前段階の利益です。また分母の投下資本は有利子負債(債券とか借入金)と株主資本の合計で、実際に仕事に投下する資金です。これほど良い目安はないと思います。

 さてそうするとこのROIC(投下資本利益率)はどの程度でしょうか?

最近ではハウス食品が2027年までの計画において6%以上を目指すと報道されています。日本全体として最新の公的統計が見つかりませんでしたが、概ね5%超程度が中央値のようです。

 債券発行した企業が、仮にROIC(投下資本利益率)5%だとします。1億を投じて事業を行い、経費支払い後500万円が残るということです。ここからその1億円を調達したコストである金利を支払う。1億を債券で調達したら、1%の金利をはらうと500万のうち100万円を支払うことになります。債券購入者に20%もの利子をはらうなど到底できません。

このROICを5%程度と考えれば、おのずと企業が発行する債券の確定利子が20%とかいわれたら「これは間違いなくおかしい」と考えるべきでしょう。

あとから考えることは誰でもできる

 以上の理屈は、後から考えたもので、実際にそういう話を持ち込まれて、絶対安心、リスク無し、私を信じてとかいわれたら、さらに人気だから今決断しないと買えません、とか言われると、つい騙されてしまう可能性は誰にもありそうです。そういう時は、儲かる話はいつでもある、慌てることはないと思えるかどうかかもしれません。また、金融知識に自信がある人ほど投資詐欺にやられてしまうという調査結果もあるので、まずはリスク無し資産のリターンは0.69%が限度(今の金利状況ですが)、これを超えたリターンをリスク無しで得られるといわれたら詐欺か説明している人の勘違いとおもって、公的機関等に事前に確認することをお勧めします。

(小山 浩一)