今回は前回に引き続き日本です。前回は他国と対比する意味からドルベースで日本を見ました。しかしわれわれ日本人の体感としてはやはり「円ベース」でしょう。
日本ではかなり長期にわたって円ベースでも名目GDPは増大していません。この事実は「失われた○○年」との表現で雰囲気的に全体の共通認識のようになっています。
株式市場については1990年代から一定期間同様でした。しかし2011年ころからみると株式時価総額は増大しています。
図表1に円ベースの日本の名目GDPと株式時価総額推移を示します。
図表1日本名目GDPと株式時価総額推移 (図表1およびこの後出てくる図表2とも名目GDPは内閣府経済社会研究所,株式時価総額は日本取引所から筆者集計により作成)
名目GDP(図表の青線)は1994年からのデータとなっています。この時期から現在まで俯瞰的にはほぼ横ばいです。「ほぼ横ばい」ですが大きな区分としては94年から2012年あたりまでのなだらかな微減、その後なだらかな微増に見えます。いずれにしろ名目GDPはほぼ成長せずに30年以上の年月を経てきたといえそうです。
1994年からほぼ10年単位で年平均成長率をみると名目GDPは
94~00年 0.7% 00~10年 -0.0045% 10~20年 0.73% となっています。
これに対して株式時価総額(図表茶色線)はかなり大きな上下動の軌跡を確認できます。大きな上下動を伴いながら、94から2011年までほぼ横ばい、それ以降大きく上昇しています。株式時価総額は2014年にほぼ名目GDPと同水準、その後名目GDPを超えて増大しています。しかし大きな上下動があるので、その間、名目GDPと同水準になったり、大きく超えたりという動きを示しています。
株式時価総額について10年単位で同様に年平均成長率をみると、
94~00年-0.46% 00~10年-3.45% 10~20年7.67%
となっています。
日本の株式時価総額は名目GDPの成長(微増)の時期(2011年~)に上昇しています。ただその上昇率は名目GDPの成長を大きく上回る率となっています。株式時価総額は、名目GDPがほぼ横ばいに近いので、これを大きく上回らない限り増大できないと解釈することも可能です。
名目GDPと株式時価総額の関係
日本の場合、名目GDPが微減の時期に株式時価総額は大きな上下動を伴いながら微減、名目GDPが微増する時期に株式時価総額は大きな上下動を伴いながら増大しています。その結果、両者の乖離はどうなっているでしょうか?乖離の状況を下表に示します。
図表2 株式時価総額/名目GDP
単位:百万円 |
1995 |
2000 |
2005 |
2010 |
2015 |
2020 |
2021 |
2022 |
名目GDP |
525兆2995億00百万 |
537兆6142億00百万 |
534兆1062億00百万 |
504兆8737億00百万 |
540兆7408億00百万 |
539兆0091億00百万 |
553兆6423億00百万 |
566兆4897億 00百万 |
株式時価総額 |
365兆7160億93百万 |
360兆5547億27百万 |
539兆7395億08百万 |
310兆4516億26百万 |
589兆7888億04百万 |
693兆6897億59百万 |
753兆0202億81百万 |
705兆4341億37百万 |
株式時価総額/名目GDP |
0.70 |
0.67 |
1.01 |
0.61 |
1.09 |
1.29 |
1.36 |
1.25 |
日本では2014年まで「名目GDP>株式時価総額」、2015年から逆転して「名目GDP<株式時価総額」という関係に変化しています。特に2015年からは名目GDPが成長しており、その時期にそれを上回るレベルで株式時価総額が増大したと思われます。
名目GDPと株式時価総額の比率(株式時価総額/名目GDP)は95年0.70でした。その後下落、上昇を経て2010年0.61となります。2010年段階では株式時価総額は名目GDPの61%程度の規模でした。その後上下しながら2015年に1.09となり、名目GDPを上回り、2020年に1.29となっています。2020年には株式時価総額は名目GDPの129%程度の規模にまで増大しています。
これまで見てきた国々では、折れ線グラフでみても明確に名目GDPが伸び、それと連動するように株式時価総額が増大していました。ところが日本では名目GDPが横ばい状態の中で、わずかな微増時期に株式時価総額が大きく増大しています。
昨年から現在(24年1月30現在)にかけて日本株は大きく上昇しています。これが継続するかどうかは名目GDPの伸びが一つの目安となりそうです。現在新NISAなどで日本の株式市場や日本株インデックスに投資している人は23年から現在にかけて名目GDPの伸びを確認し、また今後の予想を検討する必要がありそうです。これについてはいずれ取り上げたいと思います。
(小山浩一)