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リスクリテラシー①

リスクリテラシーとは

リスクリテラシーとは、「リスクやリスクに関する情報に適切に対処する基本的能力」として定義されます(金澤ら, 2020)a)。そしてその具体的な内容として例えば、1)「ゼロリスク志向」、2)「リスク対リスクのトレードオフ」、3)「リスク対便益のトレードオフ」、4)「リスク認知のパラドックス」、5)「リスクの基礎知識」、6)「リスク認知のバイアス」などが挙げられます(金澤ら, 2020)a)

 

まず「ゼロリスク志向」について、市民は絶対安全(ゼロリスク)を求めることが多いですが、様々な科学技術や化学物質の利用などにおいてゼロリスクの達成は不可能であり、市民はこの点について理解する必要があります。次に「リスク対リスクのトレードオフ」について、目に付く、あるいは気になるリスクを低減させると、今度は別のリスクが問題となることも実際には多く、この点も理解しておくことが大切です。「リスク対便益のトレードオフ」とは、科学技術などの利用においてはリスクばかりでなく、そのベネフィットも考慮する必要があることを述べています。「リスク認知のパラドックス」とは、人間の一般的な傾向として、重大なリスクが克服されると、それよりも一段レベルの低いリスクをあたかも重大なリスクであるかのように認知してしまうことを言い、この点についても留意が必要です。「リスクの基礎知識」とは、リスクの概念やリスクに関する用語など、リスクに関する基礎知識についてどの程度理解しているかに関することであり、ある程度の理解が求められます。「リスク認知のバイアス」については、コラム「リスク認知」で解説しましたように、人間の主観的・直感的なリスク判断の仕方や、そのバイアスの特徴などについて理解を深めておくことが、様々なリスクについて考える上で大切です。リスクリテラシーを構成する要因の詳細については、金澤ら(2020)a)や田中(2014)b)らの論文を参照して下さい。

 

リスクリテラシーは、何かの思想やある科学技術に対する賛否などの態度を強要するものでは決してなく、リスクについて考える上で皆が議論するための共通の枠組みを提供するものです。リスクリテラシーは、個々人が様々な科学技術や化学物質などのリスクやベネフィット、あるいは受容の判断を行う上で不可欠な能力であり、現代市民が身につけておくべきリテラシーと言えます。                                                     

                                               (田中 豊)

a) https://www.jstage.jst.go.jp/article/sraj/29/4/29_243/_pdf/-char/ja

b) https://www.jstage.jst.go.jp/article/sraj/24/1/24_31/_pdf/-char/ja